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奈良地方裁判所 昭和55年(行ウ)7号 判決 1987年1月14日

奈良市あやめ池南2丁目1番26号

原告

木奥明子

右訴訟代理人弁護士

大深忠延

中村悟

西田正秀

吉田恒俊

佐藤真理

相良博美

千田正彦

奈良市登大路町18

被告

奈良税務署長 大西昭男

右指定代理人

佐山雅彦

外8名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が,昭和53年7月4日,原告の昭和48年分の贈与税についてした賦課決定及び無申告加算税の賦課決定(いずれも昭和60年10月18日付更正処分により一部取り消された後のもの)を取り消す。

2  被告が,昭和53年11月10日,原告の昭和49年分の贈与税及び無申告加算税についてした再更正処分を取り消す。

3  被告が,昭和53年7月4日,原告の昭和50年分の贈与税についてした賦課決定及び無申告加算税の賦課決定(いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件各処分の経緯

原告は,昭和48ないし50年分(以下「本件各年分」という。)の贈与税の申告書を提出しなかったところ,被告が,原告の本件各年分の贈与税について決定及び無申告加算税の賦課決定をしたのであるが,被告がした右決定及び賦課決定並びにこれらについての更正,再更正,異議決定並びに国税不服審判所長がした審査裁決の経緯及び内容は,別表「課税の経過及び内容」記載のとおりである。

2  本件各処分の違法事由

しかし,被告がした原告の昭和48年分贈与税についての決定(昭和60年10月18日付更正により一部取り消された後のもの。以下「昭和48年分決定」という。),昭和49年分についての再更正(以下「昭和49年分再更正」という。),昭和50年分についての決定(審査裁決により一部取り消された後のもの。以下「昭和50年分決定」という。)は,いずれも贈与の事実認定に誤りがあるから違法であり,したがって,また,右昭和48年分決定,同49年分再更正,同50年分決定を前提としてなされた右各無申告加算税の賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)も違法である。

よって,昭和48年分決定,同49年分再更正及び同50年分決定(以下「本件各処分」という。)並びに本件各賦課処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1の事実は認め,2の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件各年分の贈与税の課税価格は,次の根拠により,昭和48年分が2,069万2,560円,昭和49年分が201万4,000円,昭和50年分が106万8,600円であり,また,昭和48年分の贈与税額の計算上累積課税価格の計算に算入される昭和46年の受贈財産の価額は64万8,255円となるから,いずれもその範囲でなされた本件各処分に違法はない。

(一) 原告が贈与によって取得した財産

(1) 奈良市あやめ池南2丁目の土地建物

(ア) 原告は,昭和48年5月12日,その夫・木奥芳弘(昭和51年6月6日死亡,以下「芳弘」という。)と,芳弘所有の別紙不動産目録記載の不動産(以下「本件不動産」といい,うち土地を「本件土地」,建物を「本件建物」という。)について,不動産贈与契約公正証書(公証人得津良之助昭和48年第644号。以下「本件公正証書」という。)を作成した。

(イ) 原告は,本件公正証書により,芳弘から本件不動産の贈与を受けた。

(ウ) 右土地建物の価額は,別紙評価書一記載のとおり,1,947万5,460円である。

(2) 木奥商店の株式

(ア) 原告は,昭和49年4月25日,芳弘から,株式会社木奥商店(以下「木奥商店」という。)の株式2,000株の贈与を受け,同日,その名義を芳弘から原告へ書き換えた。

(イ) 右株式の価額は,別紙評価書二記載のとおり,59万4,000円である。

(3) 住友銀行奈良支店の定期預金

(ア)① 芳弘は,昭和46年3月23日,同人所有の木奥喜美子(以下「喜美子」という。)名義の株式会社住友銀行奈良支店(以下「住友銀行」という。)の定期預金40万円(番号614406)を引き出し,原告は,同日,右現金をもって,住友銀行において,原告名義の40万円の定期預金(番号376358。以下「住友預金(ア)」という。)の預入れをした。

② ①は,原告が,芳弘から,現金40万円の贈与を受けて預金したものである。

(イ)① 芳弘は,昭和48年7月17日,住友銀行の同人名義の定期預金60万円(番号139222)を引き出し,原告は,同日,右現金をもって,同行において,原告名義の60万円の定期預金(番号126683。以下「住友預金(イ)」という。)の預入れをした。

② ①は,原告が,芳弘から,現金60万円の贈与を受けて預金したものである。

(ウ)① 芳弘は,昭和49年8月26日,同人名義の株式会社南都銀行本店(以下「南都銀行」という。)の定期預金から,現金50万円を引き出した。

② 原告は,同年9月11日,住友銀行において,原告名義の50万円の定期預金(番号200800。以下「住友預金(ウ)」という。)の預入れをした。

③ ②は,原告が,芳弘から,①の現金50万円の贈与を受けて預金したものである。

(4) 南都銀行本店の定期預金

(ア)① 芳弘は,昭和49年5月10日,南都銀行の同人名義の定期預金200万円(番号1594)を引き出し,原告は,同日,右預金をもって,南都銀行において,原告名義の50万円の定期預金(番号1217。以下「南都預金(ア)」という。)の預入れをした。

② ①は,原告が,芳弘から,現金50万円の贈与を受けて預金したものである。

(イ)① 芳弘は,昭和50年4月4日,南都銀行の同人名義の普通預金(口座番号209876)から,50万円を引き出し,原告は,同日,右現金をもって,南都銀行において,原告名義の50万円の定期預金(番号743。以下「南都預金(イ)」という。)の預入れをした。

② ①は,原告が,芳弘から,現金50万円の贈与を受けて預金したものである。

(5) 住友信託銀行奈良西大寺支店の貸付信託

(ア) 原告は,昭和49年4月30日,株式会社住友信託銀行奈良西大寺支店において,原告名義の貸付信託(ホ号第38回5年290号)元本40万円(以下「本件貸付信託」という。)を設定し,その源資のうち14万円は,原告が,同日,昭和44年4月7日株式会社住友信託銀行千葉支店で設定した貸付信託(ろ号第29回千甲第111号)の元本10万円とその収益金4万円の償還を得て,これを充てた。

(イ) 原告は,(ア)の信託を設定する際,芳弘から現金26万円の贈与を受け,その源資の残部としたものである。

(6) 郵便貯金への入金

(ア) 原告は,芳弘から,家計費に充てるため,原告に手渡された現金のうちから,家計費に必要な額を支出した残額を,昭和48年中に8万円,昭和49年中に10万円,昭和50年中に48万円を原告名義の郵便貯金口座へ入金した(以下「本件郵便貯金」という。)。

(イ) (ア)は,芳弘から,原告に対する,それぞれ右同額の現金の贈与である。

(7) 大和証券大阪支店における買入株式

原告は,大和証券株式会社大阪支店(以下「大和証券」という。)において,芳弘の取引口座を利用して株式を買入れ,あるいは芳弘が買入れた株式を原告名義に書き換えることにより,次のとおり芳弘から贈与を受けた。

(ア)① 原告は,昭和48年12月6日,前日に買付委託した株式会社三越(以下「三越」という。)の株式1,000株の代金49万8,100円を大和証券へ支払ったが,そのうち40万円については,同日,原告名義の郵便貯金口座から引き出した。

② 原告は,①の残余の代金について,芳弘から,現金9万8,100円の贈与を受けた。

(イ)① 芳弘は,同人が買入れた三越の株式1,000株を,昭和48年12月18日,原告名義に書き換えた。

② ①は,芳弘から原告への右株式の贈与である。

③ 右株式の価額は,別紙評価書三記載のとおり,43万9,000円である。

(ウ)① 原告は,昭和49年6月4日,同年5月31日に買付委託した日本セメント株式会社(以下「日本セメント」という。)の株式1,000株の代金19万円を大和証券へ支払ったが,そのうち18万円については,同日,原告名義の郵便貯金口座から引き出した。

② 原告は,①の残余の代金について,芳弘から,現金1万円の贈与を受けた。

(エ)① 原告は,昭和49年6月11日,同月8日に買付委託した日本セメントの株式1,000株の代金19万円を大和証券に支払ったが,そのうち14万円については,原告名義の郵便貯金口座から引き出した。

② 原告は,①の残代金について,芳弘から,現金5万円の贈与を受けた。

(オ)① 原告は,昭和50年9月25日,同月22日に買付委託した三越の株式1,000株の代金38万8,600円を大和証券へ支払ったが,そのうち30万円については,原告名義の郵便貯金口座から引き出した。

② 原告は,①の残代金について,芳弘から,現金8万8,600円の贈与を受けた。

(8) 大丸の株式

(ア) 原告は,昭和46年6月9日,芳弘から,同人所有の大丸の株式1,435株を原告名義に書き換えることにより,その贈与を受けた。

(イ) 右株式の価額は,別紙評価書四記載のとおり,24万8,255円である。

(二) 課税価格の計算について

(一)の原告が芳弘から贈与を受けた財産を年分別に整理すると,次のとおりである。

(1) 昭和46年の贈与

(ア) 3月23日 現金(住友銀行の定期預金に預入れ) 40万円

(イ) 6月9日 大丸の株式1,435株24万8,255円 計 64万8,255円

(2) 昭和48年の贈与

(ア) 5月12日 奈良市あやめ池南2丁目の土地建物 1,947万5,460円

(イ) 7月17日 現金(住友銀行の定期預金に預入れ) 60万円

(ウ) 12月6日 現金(三越の株式買入資金) 9万8,100円

(エ) 12月18日 三越の株式1,000株 43万9,000円

(オ) 昭和48年中 現金(郵便貯金口座へ預入れ) 8万円

計 2,069万2,560円

(3) 昭和49年の贈与

(ア) 4月25日 木奥商店の株式2,000株 59万4,000円

(イ) 4月30日 現金(住友信託銀行の貸付信託の設定資金に充当) 26万円

(ウ) 5月10日 現金(南都銀行の定期預金に預入れ) 50万円

(エ) 6月4日 現金(日本セメントの株式買入資金に充当) 1万円

(オ) 6月11日 同上 5万円

(カ) 9月11日 現金(住友銀行の定期預金に預入れ) 50万円

(キ) 昭和49年中 現金(郵便貯金口座へ預入れ) 10万円

計 201万4,000円

(4) 昭和50年の贈与

(ア) 4月4日 現金(南都銀行の定期預金に預入れ) 50万円

(イ) 9月25日 現金(三越の株式買入資金に充当) 8万8,600円

(ウ) 昭和50年中 現金(郵便貯金口座へ預入れ) 48万円

計 106万8,600円

2  原告は,本件各年分の贈与税の申告書を被告に提出しなければならなかったにもかかわらず,いずれもこれを提出しなかった。また,申告書を提出しなかったことについて国税通則法(昭和37年法律第66号)66条1項但書に規定する「正当な理由」もない。したがって,被告がなした本件各賦課決定も適法である。

三  被告の主張に対する認否

1の事実のうち,(一)(1)(ア),同(2)(ア),同(3)(ア)①,同(イ)①,同(ウ)①,同②,同(4)(ア)①,同(イ)①,同(5)(ア),同(6)(ア),同(7)(ア)①,同(イ)①,同(ウ)①,同(エ)①,同(オ)①,同(8)(ア)の各事実は認め,その余の事実及び主張は否認する。2の主張のうち,申告書を提出しなかったことは認め,その余は争う。

四  原告の反論

1  本件公正証書は,芳弘から原告への死因贈与の趣旨で作成されたものである。すなわち,

(一) 原告は,本件公正証書作成後も,芳弘から本件不動産の所有権移転登記を受けていない。

(二) 原告は相続に至るまで贈与税の申告をしていない。また,被相続人芳弘は本件公正証書作成後も本件不動産に係る固定資産税を納付しており,同様に本件不動産の火災保険料を負担していた。

(三) 芳弘は,本件公正証書作成後も本件不動産を自己の所有として使用管理していた。これは芳弘の昭和50年納税申告書に本件不動産を芳弘の所有としていることからも明らかである。

(四) 本件公正証書は,芳弘が将来死亡した際に,後妻である原告と先妻の子らとの間に相続財産の承継をめぐって争いが生じても,原告が確実に本件不動産を取得でき現在の生活基盤を喪失しないようにという芳弘の配慮から作成されたものである。したがって,芳弘は,自己が原告よりも先に死んだときのために本件公正証書を作成したものであり,生前中に贈与する意思はなかった。

2  仮にそうでないとしても,本件公正証書記載の不動産のうち,奈良市あやめ池南2丁目1192番28の宅地については,贈与の無効が別件の訴訟で確定していることからすれば,本件不動産についての贈与も同様に無効と解される。

3  被告の主張1(一)(2)(木奥商店の株式の贈与)は,基礎控除の範囲内のものである。

その評価について,被告は,右株式を当初更正では10万円と評価しながら,原告の異議申立てに対して65万4,000円とその評価を変更し,更に本訴において59万4,000円と主張するに至ったものである。また,その評価の算出方法において,① 自昭和48年1月1日,至同年12月31日の年配当率について50%としているが,そのうち45%は狂乱物価による特別配当であるのにこれを考慮せず,②  について,昭和53年4月1日の改正により従前の不合理を改めるために追加された評価通達188(4)但書を適用すべきであるのに適用せず,③ 課税時期における貸借対照表を使用すべきであるのに,直前期末のものを用い,借地権評価においても課税時期の評価を用いるべきであるのに,昭和51年における数値を用いているという誤りがある。

4  被告の主張1(一)(3)ないし(5),(7)の預金等の行為は,いずれも原告がその自己資金によってなしたものである。

(一) 原告は,かなりの額の預貯金と手持ちの現金を有していた。

(1) 昭和25年1月5日から昭和42年2月28日まで木奥商店に勤めて経理事務を担当し,月給を得ていた。

(2) 同商店を退職する際,退職金43万円を受領した。

(3) 芳弘と結婚する際に結納金100万円を受領した。

(二) 住友預金(ア)は,喜美子の結婚費用の立替の返戻金である。

(三) 住友預金(イ)は,木奥喜代子(以下「喜代子」という。)の婚約不履行事件の弁護士費用等の立替の返戻金である。

(四) 住友預金(ウ)は,原告の手持ちの現金を預金したものであり,被告の主張1(一)(3)(ウ)①の現金50万円は灯ろうの代金等に費消した。

(五) 南都預金(ア)は,立替えた現金の返戻金である。

(六) 南都預金(イ)は,天井の張替え,畳の修理などの費用を立替えた分の返戻金である。

(七) 本件貸付信託の源資の残部は,原告の手持ちの現金を充てたものである。

(八) 大和証券における買入株式の代金は,すべて原告の手持ちの現金あるいは商工組合中央金庫奈良支店のワリショーによる資金から充てたものである。

5  本件郵便貯金を贈与ととらえることは,その発想自体家父長制的であり,妻の持分権すら認めず,妻の座をないがしろにするものである。また,このような贈与まで捕捉しなければならないとすれば,税務行政は人的物的に破綻する。

6  大丸の株式は,喜美子が他家に嫁いだために,芳弘が原告名義に変更したものである。

7  本件各処分は,芳弘の相続財産をめぐる相続人間の争いに被告が介入し,相続人木奥芳彦に加担して,原告に対し,殊更に課税したものであって,違法である。

(一) 芳弘の死亡により,原告は本件不動産を相続財産として申告した。

(二) 被告は,芳弘名義の不動産のうち,本件不動産を原告への生前贈与の対象として,また奈良市芝新屋町17番宅地1137.65m2,同番地上建物家屋番号16番木造瓦葺2階建1階265.61m2,2階139.96m2外附属建物14棟(以下「芝新屋町の土地家屋」という。)については長男木奥芳彦(以下「芳彦」という。)への生前贈与の対象として認定した。

(三) その結果,原告には本件各処分がなされることになったのに対し,芳彦に対しては除斥期間経過を理由としてなんらの課税もなされなかった。これは著しく相続人間の均衡を欠くものである。

五  原告の反論に対する被告の再反論

1  本件公正証書の趣旨について

(一) 本件公正証書は,芳弘と原告とが共に得津良之助公証人役場に出頭し,各自印鑑証明書を提出して人違いでないことについて公証人の確認を受けた上で,本旨として掲げる事項を陳述して録取を受け,その後,これを閲覧の上承認して署名捺印したものであるから,本件公正証書に録取された内容はすべて芳弘と原告の真意に基づくものである。そして,本件公正証書の記載のどこからも死因贈与の趣旨は読み取れない。

(二) 本件公正証書に基づく登記がなされていないのは,たんに登記手続がなされなかったというにすぎない。

(三) 原告が相続財産として申告し,贈与税の申告をなさなかったのは,もっぱら税負担を軽減しようとしたにすぎない。

(四) 本件公正証書作成当時,贈与者である芳弘と原告とは夫婦として同居し,かつ生計を一にしていたもので,芳弘が相当多額の収入及び資力を有していたのであるから,芳弘が本件不動産を原告にすでに贈与しながら,その後もその他の自己所有の資産とことさら区別することなく固定資産税,火災保険料等の負担をしていたからといって不自然ではない。

(五) 芳弘はたんに事実上本件不動産を居住のために使用していたにすぎない。

2  木奥商店の株式の評価について

(一) 評価通達においては,特別配当,記念配当等の名称による配当率のうち,将来毎期継続することが予想できないものの率を控除することとされている(評価通達188(3))ところ,右50%の年配当率はすべて普通配当の配当率であって,特別配当の配当率を含まない。

(二) 課税時期(昭和49年4月25日)において適用すべき評価通達188(4)には但書は存しない。

(三) 評価書二の八2に記載する場合にあたるとして直前期末現在の数値を用いたものであり,借地権価格については昭和51年から同49年との間には木奥商店の有する借地権の内容に変化はなく,地価の変動は極めて少なく,右借地権の所在する奈良市南京終町の昭和49年分路線価と昭和51年分路線価は同額であった。

3  原告の自己資金について

原告は,昭和42年2月28日以降は給与所得はなく,役員賞与や配当等の収入はすべて郵便貯金に入金されていたのであるから,原告が多額の現金を所持していたことはない。また,当時,芳弘は相当多額の収入及び資力を有していたから,原告から40万円ないし60万円の現金を立て替えてもらう必要はない。

4  芳彦との均衡について

芳弘から芳彦への不動産の贈与は,昭和38年2月28日付不動産贈与契約公正証書(公証人八角次郎第20778号)によりなされたもので,国税通則法(昭和37年法律第66号)70条3項の決定の期間制限の規定に抵触することとなるので,右贈与については贈与税を課税しなかったものである。

第三証拠

本件訴訟記録中書証目録及び証人等目録各記載のとおりである。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  被告の主張1(一)(1)(ア)の事実は当事者間に争いがない。

三  被告の主張1(一)(1)(イ)(本件不動産の贈与)の事実及び原告の反論1について

1  被告は,本件不動産は本件公正証書によって,芳弘から原告に贈与されたものであるとするのに対し,原告は,右公正証書は死因贈与の趣旨で作成されたものであると主張するところ,成立に争いのない甲第1号証1,6,同第2,3号証,原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる同第1号証の2ないし5,同第4ないし第6号証,その1,2面については成立に争いがなく,その余の部分については原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる同第26,27号証,成立に争いのない乙第3,4,6号証,証人楳生真玄の証言及び原告本人尋問の結果(いずれも以下の認定に反する部分を除く。)によれば,

(一)  原告は,本奥商店の代表取締役をしていた芳弘の後妻で,芳弘には先妻との間に芳彦,弘子,喜美子,喜代子の四子がいたが,芳弘は昭和51年6月6日に死亡したこと,

(二)  本件不動産については本件公正証書に基づく原告への所有権移転登記はなされておらず,原告が芳弘の遺産として相続税の申告をしたこと,

(三)  芳弘は,本件公正証書の作成後に提出した昭和48ないし50年の各所得税の確定申告書に本件不動産を自己の所有の不動産として申告していること,

(四)  芳弘は,同様に,本件不動産のうち,建物について火災保険契約の当事者となり,その保険料を支払っていたこと,

(五)  芳弘は,本件公正証書作成後も本件不動産に居住していたこと,

(六)  芳弘は,本件土地がもと芳彦の所有であったことから,芳彦に対し,本件不動産と芳弘所有の他の土地との交換について芳彦と相談した際に,交換の理由として,自分が死んだら後妻の明子に本件不動産を遺産としてやりたいと述べたこと,

(七)  本件公正証書の作成の目的が,芳弘が原告と芳彦夫婦との仲が良くないことを慮って,原告に本件不動産を遺そうとすることのみにあるのであれば,芳弘は,その生前にこれを原告に贈与しなくとも,死因贈与で事足りること,

以上の各事実が認められる。

2  しかし,他方,前掲各証拠に,成立に争いのない甲第13,14,22号証,乙第2,1,772号証,原本の存在及びその成立について争いのない同第73,74号証,証人澤村博の証言を総合すれば,以下の事実が認められ,証人楳生真玄の証言及び原告本人尋問の結果中の以下の認定に反する部分は右各証拠に照し措信できず,他に以下の認定に反する証拠はない。

(一)  本件公正証書の記載事項は,その表題を「不動産贈与契約公正証書」とし,本旨として「第壱条 昭和48年5月壱弐日贈与者木奥芳弘はその所有に係る後記不動産を次条以下の約定で受贈者木奥明子に贈与することを約し受贈者はこれを受諾した」,「第弐条贈与者は受贈者に対し前条の不動産を引渡し,かつ同時に所有権の移転をなした なお,所有権移転登記手続を速やかにするものとする」とするものであって,いずれも明確に贈与をその内容としており,右文言には,本件不動産の処分を芳弘の生存中は芳弘の意思に係らしめる等の記載は全くなく,かえって右第弐条は,本件不動産の即時の引き渡し及び所有権の移転をわざわざ定めていることからして原告の主張するような死因贈与の趣旨は全く窺えないこと,

(二)  本件公正証書の右文言は,芳弘が,その意思に沿うように,法律知識のある司法書士中沼清五郎及び公証人得津良之助とに相談して決めたもので,本件公正証書の作成にあたって右公証人は本件公正証書を芳弘と原告の双方に閲覧させて署名させていること,

(三)  芳弘は,本件公正証書を作成したことを芳弘の子らに対しては秘し,原告に対してはその直後に公正証書の謄本一通を交付して,これさえ持っていたら,自分が死んだ場合には法務局に行って登記の手続きをしたらよいと語っていたが,贈与の有無や本件不動産の所有権の帰属等については,とくに他に原告に述べたことはないこと,

(四)  原告は,昭和51年9月12日の芳彦との遺産分割の交渉において,本件不動産を芳弘から生前贈与されているものとして主張したこと,

(五)  原告は,昭和54年7月7日の当庁の昭和54年(ワ)第135号事件の訴訟救助についての審尋において,本件不動産は生前に贈与を受けたが,登記は私が先に死ぬか夫が先に死ぬか分からないのでそのままにしておいたと供述していること,

(六)  芳弘は,昭和44年ころに,妻である原告との住居として本件土地上に本件建物を新築し,以後,原告と共に本件建物に居住していたものであって,本件公正証書の作成によって本件不動産原告に贈与したとしてもあえてその住居を移すなどの必要があったわけではなく,本件公正証書の作成後も特に夫婦仲に問題もなく原告と生計をともにして生活していたのであるから,相当多額の収入を得ていた芳弘が本件不動産を登記簿上自己の所有名義のままで放置し,また,これを自己の所有財産として税務当局に申告し,本件不動産の固定資産税を負担し,火災保険料も支払う等本件不動産の管理状況に変化がないことをもって不自然とはいえないこと,

(七)  原告及びその母は,原告が芳弘と結婚するに際し,原告が居住するための土地家屋だけは原告に確保してもらうことを芳弘から約束してもらっていたこと,

(八)  芳弘は,昭和45年ころ,原告と結婚するに際し,芳彦に対し財産管理について,原告に家と土地をやってくれたらそれ以上はいらないと言っており,また,昭和48年ころには,桝谷義一に対し,原告の身の振り方について,本件不動産を遣るつもりだと答えているが,右意図を実現するについて,贈与ではなく死因贈与によらなければならない理由はないこと,

(九)  芳弘と芳彦との間においても昭和38年2月28日に芳弘が芳彦に対し不動産を贈与する旨の不動産贈与契約公正証書を作成しているところ,右公正証書には,本件公正証書と同様に,その内容に何ら死因贈与と解すべき記載はなく,その対象となった不動産についても,本件不動産と同様に,芳彦に対する右公正証書に基づく所有権移転登記はなされていなかったこと,そしてそのため,右贈与を税務当局は捕捉することができず,芳彦に対し除斥期間の経過により贈与税は課せられなかっこと,

(一〇)  本件不動産について本件公正証書に基づく登記をすれば,その時点で税務当局に贈与の事実が明らかとなり,贈与税の賦課を受けることとなるおそれがあったこと,

(一一)  芳弘は,昭和31年ころから顧問税理士をしていた楳生真玄に,自己の死後に原告が生活上はもちろんのこといろんな点で困らないようにする手だてについて何回も相談をしていること,

(一二)  芳弘は,原告とは年が離れ,高血圧と糖尿病の持病があったが,芳弘の死自体は急のことで,本件公正証書作成の際に,とくに芳弘の死期が迫っているとの事情にはなく,具体的に芳弘の財産の処分が,遺族等の間で問題となる機会を近くに予想して本件公正証書が作成されたような事情はないこと,

以上の各事実が認められるのであって,右各事実を総合すれば,本件公正証書をもってなされた行為の内容については,当事者の明示の意思表示としては,本件公正証書の文書を含めて,贈与以外にはなく,また,芳弘あるいは原告が右公正証書の記載と相容れない意思を表明したこともなく,他にも,強いて右文言を死因贈与と解釈しなければならないほどの事情は見当たらないので,結局本件公正証書を贈与契約と解するほかはないものであり,したがって,被告の主張1(一)(1)(イ)の事実を認めることができ,原告所論の事実誤認の違法はない。

四  原告の反論2の主張について

大阪高裁昭和58年(ネ)第2449号,同59年(ネ)第2505号事件(原審当庁昭和53年(ワ)第281号,同54年(ワ)第135号事件,甲第33号証の1,2)において,右事件の控訴人である本件原告は,原告の反論2に記載する土地について,芳弘から本件原告への死因贈与を主張したところ,右事件の判決は,右死因贈与の主張を本件公正証書の文言に対比して採用しがたいとしたものである。まず,右事件の判決の既判力は,本件に及ぶものではないし,また,前記のように,右事件の判決は,死因贈与の主張を,前記認定のとおり贈与の趣旨の文言である本件公正証書と対比して排斥したものであって,贈与の事実を否定したものではない。さらに,原告が本件公正証書作成時において,芳弘からの本件不動産の贈与を受ける意思を有し,これを表示していることは,右三2認定の各事実の他に,前掲各証拠により,原告は,本件公正証書作成の際に,芳弘から命じられて,印鑑証明を準備して右公証人役場へ出向き,芳弘,右司法書士中沼及び右公証人得津と相談のうえ,芳弘と原告間の本件公正証書を右公証人がその方式に従って作成したのであるから,原告にはその記載内容は判かっていたこと,原告は,芳弘から,芳弘が芳彦に対しても,贈与の公正証書を作成していることを普段から聞かされていたことなどの事実が認められることなどを総合すれば,これを認めることができるから,本件公正証書による贈与が無効であるとすべき理由はない。

五  被告の主張1(一)(1)(ウ)の事実(本件不動産の評価額)について

相続税法22条は,贈与により取得した財産の価額は,特別の定めにあるものを除き,当該財産の取得の時における時価により評価すると定めているが,その評価方法について特別に規定されているのは,地上権,永小作権等の僅かな種類の財産についてのみであり,その他の財産については,時価(客観的交換価値)をいかなる方法で評価するかについては,様々な評価方法が存在し,その細目は技術的な側面を有しているところ,国税庁は相続税財産評価に関する基本通達(乙第9,10号証,以下「評価通達」という。)を定めて財産の評価方法を規定し,大阪国税局は相続財産評価基準書(乙第5,7号証,以下「評価基準書」という。)を定めて評価基準を設定しているが,それが合理的であって妥当性を有すると認められるならば,その評価方法に沿った評価額は適法であると解される。そして,評価通達は国税庁が,評価基準書は大阪国税局が,それぞれ各種の調査実績に基づいて,時価の評価方法として合理的なものとして定めたものであり,かつ,公正な処理のために一般的に適用されるものであるから,その不合理性が認められないかぎりは,右評価通達及び評価基準書に規定された時価の評価方法は,時価の評価方法として妥当性を有するものといえる。本件不動産についての,評価通達及び評価基準書による評価額は,成立に争いのない乙第13,57号証により評価書一記載のとおりに認めることができ,その評価方法についてはなんら不合理な点を認めることができないから,被告の主張1(一)(1)(ウ)の事実を認めることができる。

六  被告の主張1(一)(2)(ア)(木奥商店の株式の贈与)の事実は当事者間に争いがない。

七  同1(一)(2)(イ)(木奥商店の株式の評価額)の事実及び原告の反論3について

1  右株式については,客観的に相当な評価額である以上,たとえ,被告が,更正,異議決定の過程でそれと異なる評価額により処分したことがあるとしても,本訴においてこれを主張することが妨げられるものではない。そして,成立に争いのない乙第12,第64ないし第70号証によれば,被告は,評価通達に従った評価方法によって木奥商店の株式を評価書二記載のとおりに計算した(なお,評価書二の九の2及び同3に「640円」とあるのは「642円」の,同3及び同11に「615円」とあるのは「617円」のそれぞれ誤記である。)ことが認められ,その評価方法には,以下に述べるとおり,不合理な点を認めることができず,原告の反論3は理由がないから,被告の主張1(一)(2)(イ)の事実を認めることができる。

2  原告の反論3①について

評価通達188(3)イは,「年配当率」について,直前期末以前2年間の各事業年度におけるその会社の利益の配当金額の算定の基となった年配当率から,特別配当,記念配当等の名称による配当率のうち,将来毎期継続することが予想できないものの率を控除した率の合計数をその期間の事業年度で除して計算した率とすると定めており,配当率を計算するについてその配当が普通配当であればその当時の経済事情を考慮しないものとしているが,そもそも,贈与による財産取得の当時の時価(交換価値)を求めるのが目的であって,当時の経済事情のもとにおける価値が問題であるから,このような方法も当時の時価の評価の方法としては合理性を有しており,それが当時存在した特別の経済事情による配当率であるとしても,それを考慮しないことが違法な評価方法となるものとはいえない。したがって,証人楳生真玄の証言から,昭和48年の事業年度の木奥商店の配当率50%が,当時の狂乱物価によるものであることが認められるとしても,これを考慮しないことが違法となるものではない。

3  同3②について

前記のとおり,評価通達は,課税実務上,全国一律に用いられているものであるから,その細目について,たとえ各種の事情から,より合理的な方向へ改正がなされたとしても,その改正時期を無視して改正後の評価方法によるものとすれば,その改正以前に,改正以前の評価通達によって時価を評価された納税者との間とで平等原則に反する結果を招来することになるのであるから,たとえ,昭和53年4月1日の改正により評価通達188(4)但書が追加されたとしても,昭和49年当時の株式の時価の評価に右但書の定める方法によることは,かえって租税平等主義に反する結果ともなるのであって,右但書の定める評価方法によらないことについて違法はない。

4  同3③について

課税実務上は,評価会社の課税時期における資産及び負債の金額が明確でない場合には,直前期末の貸借対照表を用いて計算をしていることは,証人楳生真玄の証言から認められ,右取り扱いは評価会社の課税時期の資産及び負債の金額が明らかでない場合の評価方式として合理的なものといえるところ,昭和48年度の木奥商店の純資産価額等は,右乙第64号証から,法人税申告書添付の第33期決算報告書中の貸借対照表により明らかであるが,昭和49年度の木奥商店の貸借対照表はなんら提出されておらず,昭和49年度の木奥商店の資産及び負債の金額は不明というほかなく,また,特に昭和48年度から昭和49年度の間に木奥商店の資産関係に著しい増減があったと認めるに足りる証拠もないのであるから,課税時期の直前の期末である右昭和48年度の木奥商店の資産及び負債の金額を用いて計算したことに違法はない。また,借地権価格についても右乙第12,70号証から,課税時期から昭和51年にかけて著しい増減がなかったものと認められ,右乙第67号証記載の昭和51年における芳彦の評価額から計算したことに違法はない。

八  被告の主張1(一)(3)(ア)①,同(イ)①,同(4)(ア)①,同(イ)①,同(5)(ア),同(7)(ア)①,同(ウ)①,同(エ)①及び同(オ)①(預金等の行為)の事実は当事者間に争いがない。

九  被告の主張1(一)(3)(ア)②,同(イ)②,同(4)(ア)②,同(イ)②(現金の贈与)の事実及び原告の反論4について

1  被告は,原告の右預金等の行為はすべて芳弘からの現金の贈与に基づくものであるとするのに対し,原告は,右預金等の行為は,原告の手持ちの現金を被告に立て替えたことに対する被告の返戻金によってなしたものであると主張する。

2  右預金等の行為は,いずれも芳弘の財産を原告名義の財産へ移転したものであって,合理的な理由の認められないかぎり,芳弘より原告への贈与と推認されるものである。

他方,原告の右主張に沿う証拠としては,原告本人尋問の結果があるのみであり,そして,右本人尋問の結果は,以下に述べるように信用できず,他に右預金等の行為から右現金の贈与の事実を推認することを妨げるような事実を認めるに足りる証拠はない。

すなわち,

(一)  その手持ちの現金の金額について,原告は100万円くらいはいつも置いていた,積み立てとか株式とか信託とかもあり,それを合計して100万円くらいで,家には50万円くらい置いてあった,大体100万円から200万円くらいはあった,100万円はかっちりと持っていた,そのときによって100万円あったときもあったなどと述べ,その供述内容は一貫しないこと。

(二)  その資金源についても,原告は,結納金100万円と退職金43万円を持っていたものによると供述し,あるいは木奥商店に勤めていた時に貯金したものであると主張するが,他方で,成立に争いのない乙第28,29号証,右本人尋問の結果から,原告は,定期預金の利息あるいは株式の配当金,賞与についてはすべて郵便貯金に全額入金していたことが認められること,更に,原告の芳弘から渡された生活費で余った分についても郵便貯金に入金していた旨の,前記預金等の行為はすべて原告が現金を芳弘に立て替えたのに対してその返戻金をすべて定期預金等にした旨の供述等を考え併せると,原告の供述どおりであるとすれば,資金源は当初の結納金100万円と退職金43万円あるいは最終的にも月額3万円にすぎなかった給料からの貯金のみであるのに,定期預金の利息,株式の配当,賞与,生活費からのへそくりのいずれも郵便貯金に入金されて手もとには残らず,他方で芳弘に立て替えた手持ちの現金は,すべて定期預金等に形を変えていることになって,それでも手もとにつねに100万円以上200万円までの現金があったとするのは,無から有を生じることとなり,不合理極まりないこと,

(三)  手持ちの現金を残しておく理由について,原告は,不時の出費に備えてであると供述しているが,他方で,その実際の出費の対象とするところは,被告の主張1(一)(3)(ア)の住友預金(ア)については,喜美子の結婚費用の立て替えであったり,同1(一)(3)(イ)の住友預金(イ)については,喜美子の婚約が破談になったときに住居を調えるのに使った費用の立て替えであったり(なお,主張では婚約不履行事件の弁護士費用等の立て替えとしており,そもそも主張とも食い違っている。),同1(一)(4)(イ)の南都預金(イ)については,天井の張り替え,畳の修理などの費用であったり,いずれも不時の出費とは言えないものであること,

(四)  芳弘に立て替える必要性についても,右のように特に不時の出費に備えた手持ちの現金を用いなければならないようなことで立て替えたものではなく,また右乙第28号証によれば芳弘の給与自体,月額が昭和46年には18万円,同47年には20万円あるのであり,また,芳弘は,当時,木奥商店の経営者であって,その面からも右のような費用を融通することが出来たはずであり,原告の結納金などからなる手持ちの現金などに立て替えを求める必要があったものとは考えられないこと,

(五)  原告が手持ちの現金を有していたという右供述を裏付ける証拠はなんら提出されていないこと,

以上のように原告本人尋問の結果はたやすく信用できない。

3  したがって,被告の主張1(一)(3)(ア)②,同(イ)②,同(4)(ア)②,同(イ)②の事実はいずれも認めることが出来,原告の反論4(一)ないし(三),(五)及び(六)の違法はない。

一〇  被告の主張1(一)(3)(ウ)③の事実及び原告の反論4(四)について

原告は,被告の主張1(一)(3)(ウ)①の現金50万円は灯ろうの代金等に使ったもので,住友預金(ウ)は,右現金とは無関係に原告の手持ちの現金を預金したものであると主張し,原告本人は右主張に沿う供述をし,甲第23号証の1ないし5,同第24号証の1ないし4が右灯ろう等の領収書等であるとするけれども,たとえ右灯ろう等の代金を右現金50万円を引き出した時期に支払ったことが右甲号証から認められ,また,芳弘の預金の引き出しと原告の住友預金(ウ)の預入れとの間にかなりの日時があるとしても,前記のように,原告が50万円という多額の手持ちの現金を有していたとは信用しがたく,他に原告の資金源となるものは,他の証拠からも認められないから,住友預金(ウ)は,被告の主張1(一)(3)(ウ)②の芳弘の定期預金を引き出してなしたものと認められ,したがって,被告の主張1(一)(3)(ウ)③の事実を推認することができる。

一一  被告の主張1(一)(5)(イ),同(7)(ア)②,同(ウ)②,同(エ)②,同(オ)②の事実について

1  前記のように,原告が手持ちの現金を有していたことを認めることはできず,また,原告には芳弘の有する現金以外から本件貸付信託の源資の残部26万円を充当するに足りる資金源を有していたことも認められないから,本件貸付信託は,芳弘から,現金26万円の贈与を受けて右残部としたものと推認することができる。

2  大和証券における買入株式の代金について,前記のように原告が手持ちの現金を有していたとは認められないし,また,原告は,ワリショーで定期預金をしていたうちから,右代金を充当したと供述するけれども,右供述を裏付ける書証等は提出されておらず,右供述は前記のように採用できないから,他に資金源のない原告としては,芳弘の現金から,右代金を充当したものと推認することができる。

一二  被告の主張1(一)(6)(郵便貯金への入金)について

1  同(ア)の事実は当事者間に争いがない。

2  同(イ)の事実は,右(ア)の事実により推認でき,また原告本人尋問の結果によっても,原告は,生活費が余った場合,芳弘は原告の自由にしたらよいと言っていたので,へそくりとして貯金していたとするのであるから,これが贈与に当たることは疑いがなく,原告の反論5のように,これを贈与と認めることが家父長制的発想であり,妻の座を否定するものであるなどとの主張は,主張自体理由がなく,右被告の主張1(一)(6)の事実が認められ,原告主張の違法はない。

一三  被告の主張1(一)(7)(イ)(三越株式の書き換え)について

1  同①の事実は当事者間に争いがない。

2  したがって,右事実から同②の事実を推認することができる。

3  前記の評価通達による評価額は,成立に争いのない乙第58ないし第61号証により,評価書三記載のとおりに認めることができ,その評価方法についてはなんら不合理な点を認めることができないから,被告の主張1(一)(7)(イ)③の事実を認めることができる。

一四  被告の主張1(一)(8)(大丸株式の書き換え)について

1  同(ア)の事実は当事者間に争いがない。そして,その原因が喜美子が他家に嫁いだことによろうと,原告名義とすることは,特に仮装行為であるとの事情がなければ,原告の財産としたことに違いはないから,贈与にあたるものであって,原告の反論6は理由がない。

2  前記の評価通達による評価額は,成立に争いのない乙第62,63号証により,評価書四記載のとおりに認めることができ,その評価方法にはなんら不合理な点を認めることができないから,被告の主張1(一)(8)(イ)の事実を認めることができる。

一五  原告の反論7について

芳弘より芳彦への不動産の贈与は,昭和38年2月28日付公正証書でなされていることは,成立に争いのない甲第22号証から明らかであるから,これを,当時,税務当局が把握しえなかったために,芳弘の死亡によって右贈与の事実が明るみに出た時点では,すでに除斥期間が経過して課税しえなくなっていたとしてもやむをえないことであり,証人澤村の証言によっても,税務当局が原告と芳彦との相続争いに違法に加担したことはなかったものと認められ,証人楳生真玄の証言中の税務当局の関与を疑う供述も,たんに同証人の推測を述べたにすぎず,原告主張のような芳彦との不平等な扱いはなかったものと認められるから,原告の反論7は理由がない。

一六  被告の主張1(一)の事実から,同(二)の事実を認めることができる。

一七  原告が被告に本件各年分の贈与税の申告書を提出しなかったことは当事者間に争いがなく,原告が右申告書を提出しなかったことについて,原告に正当な理由がなかったことは,弁論の全趣旨から認められるから,被告の主張2の事実も認めることができる。

一八  結論

したがって,本件各処分及び本件各賦課処分はいずれも適法であり,原告主張の違法事由はいずれも理由がない。

よって,原告の本件各処分及び本件各賦課処分取消の請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長谷喜仁 裁判官 永井ユタカ 裁判官 吉川愼一)

〈以下省略〉

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